ロートアイアンの歴史(6)2013年12月20日
ロートアイアンは19世紀よりも前の時代からヨーロッパの植民地政策によって文化が伝播したことからアメリカや、その他世界の様々な場所に伝わっていきました。そして伝わった先の地域の様々な事情によって、コロニアルスタイルと呼ばれるものや鋳造の代用品的なものが発生しました。とくに急激にヨーロッパ各地からの移民が流入してきたアメリカにおいては、ロートアイアンの本格的な技術が移行したことによって、ダイナミックな発展を遂げました。
ロートアイアンは19世紀よりも前の時代からヨーロッパの植民地政策によって文化が伝播したことからアメリカや、その他世界の様々な場所に伝わっていきました。そして伝わった先の地域の様々な事情によって、コロニアルスタイルと呼ばれるものや鋳造の代用品的なものが発生しました。とくに急激にヨーロッパ各地からの移民が流入してきたアメリカにおいては、ロートアイアンの本格的な技術が移行したことによって、ダイナミックな発展を遂げました。
ロートアイアンの中でもアールヌーボースタイルのものは動物や植物、昆虫等のモチーフを使用したかなり曲線的なものがメインとなります。動物や植物、昆虫等をモチーフとしたことで、一見すると奇怪なスタイルとも思えますが、そこにはバロック、ロココの伝統の流れと、ヨーロッパ人の民族的な趣味性を垣間見ることができ、興味深いものがあります。
その後のアールデコスタイルにおいては、一変して東洋的な影響を多く受けたものと直線的で幾何学的な模様とが現れてきました。この時代における鉄の生産は、既に産業革命の成果として飛躍的に発展し、鉄は建築の構造材の分野においても本格的に使用されるようになりました。ロートアイアンの装飾は鉄柱や橋梁、その他の鉄による構築物などに多く使用されて、しかも単なるオーナメントとしてではなく、新しく始まった鉄による機能中心の建築構造を、意匠として当時の人々の感性にいかに調和させるかという切実な悩みを垣間見ることができるのです。エッフェル塔の細部のあらゆるところには、ロートアイアンのオーナメントが施されています。
ロートアイアンは、バロックロココスタイルが18世紀前半における主流でしたが、その後商人階級にも需要が拡大したため、18世紀後半には非鉄金属や鋳物を併用することが盛んに行われるようになり、そして質的にもかなり上下が生じるようになりました。
19世紀には産業革命の影響によってヨーロッパ中に工業の発展が広がり、ロートアイアンも世紀末の装飾運動の直接の影響を従来とは全く異なる発展をするようになりました。
15世紀になると、13世紀までの植物の曲線的なデザインはなくなり、当時のゴシック建築様式の影響からか、新技術が装飾様式に導入され、角材をメインにした重厚でスクウェアーなデザインが中心となりました。
16世紀になってもゴシック調は続きますが、16世紀の後半になるとルネッサンスに通じる変化が見られます。また、15世紀から使われ始められたねじりの技法は、16世紀になるとさらに発展し、17世紀になると広く使用されるようになりました。
17世紀にはその初期からルネッサンスの影響により、平面的なPlate Iron Scrollが流行し、シルエットのような装飾効果がブームになりました。後期にはバロック・ロココスタイルが流行し、アカンサスの葉やイチハツ、美しい唐草の模様がモチーフに現れるようになりました。
ロートアイアンは11~12世紀には、帯によって隣接する唐草を接続し、その先端を装飾的なモチーフであしらったものが主流になりました。そのほかにはバラエティに富んだ三又型のドアマウントや装飾技術としての表面彫刻も特徴的です。
その後13世紀の後期には画期的な新しい装飾技術として、スタンプワークが生まれました。スタンプワークはそのほとんどが蔓や花をあしらったもので、そのブームは14世紀の前半まで続きました。
さらに14世紀になるとヨーロッパではペストが流行したためロートアイアンが発展することはあまりありませんでした。
約9000年前にエジプト人によって鉄は実用に供されていたことが知られていますが、考古学の世界ではB.C.1200年ごろに鉄器時代が始まったとされています。
この時代のこの地方においては既に鉄は農具や武具として使用されていました。その後中東から入ってきた部族によって鉄はヨーロッパに持ちこまれ拡がっていきました
11世紀には高い装飾性のあるロートアイアンを、英国に侵入したノルマン人が残しており、それらには北方民族の民話からとった神秘的な動物のモチーフがついています。
ロートアイアンと現代の工業技術との基本的な違いは、ロートアイアンが生産というものを、多品種少量や量産というような、効率を追求する工業の論理で考えるのではな、あくまで純粋に「もの」を造ることを目的化した生産システムである点にあると考えられます。ロートアイアンのこのような特性は工業ではなくて工芸といえるでしょうが、今観察すれば近代以前の生産はすべて手工芸といえました。すなわちロートアイアンは工業の情報や技術をも取り入れて現代に工芸的な生産のシステムを実現しようとしているのです。その点で、ロートアイアンは新しい感性、デザインに対応することができ、その可能性は極めて大きいでしょう。
ロートアイアンは古くからある手仕事による鉄の加工技術です。そして、工業化による効率化と機械化による技術の進歩はあったとしても、現代のおける最新の金属加工の技術の原点はロートアイアンです。しかし、ロートアイアンは、金属を自然の素材のように見立てることによって機械や手や道具と金属とが実際に接触して加工される手元から、造形のヒントが生まれ、素材の表情のみならず、加工の痕跡までもが意匠的な価値として引き出されます。すなわち技法そのものが金属素材と一体となった不可分な関係として「もの」を表現する技術となっているのです。その点がロートアイアンと現代の工業技術との基本的な技術観の違いといえるでしょう。
ロートアイアンは昔の鉄の加工技術ではありますが、それは単に機能と構造のみを目的としたものではなく、〈姿、かたち〉に対する高い価値観、装飾性への強い意欲にこたえるものでした。ロートアイアンには長い時間をかけて装飾文明の時代の中で育まれてきた伝統があり、その中で新しい様式が生み出され、継承されてきたのです。
そのため、ロートアイアンは現代において、再び価値を与えられ蘇りつつあるのです。
現代においては、鉄の加工技術が高度になり製鉄法も効率化しました。しかしそれらの技術も本質的には、プリミティブなロートアイアンの技術と変わるところは何らありません。そこから言えるのは鉄の加工における基本はロート・アイアイアンであるということです。ロートアイアンは、このような鉄の性質を効果的に活用して、鉄がもつ美しいフォルムと、テクスチュアを引き出して表現することを可能とする手法といえるでしょう。そしてそのことは、鉄が工業用に用いられる資材としてのみならず、「美と姿」を表現するための素材として、また工芸の材料としてとても優れているということを示しているのです。